【感想】杖と剣のウィストリア グリモアクタ ―始まりの涙―

ネタバレあり

 アニメ化もされたマンガ作品の過去編を原作者の大森先生が自ら筆を執り小説化。

 まず口絵を開いて驚いたのがコレットが今と全然違う! というところでした。

 マンガ版だけでは描ききれない設定や物語背景が文章になることで詳しく知れ、物語世界をより深く知ることが出来て面白かったです。

 マンガ版では塔の上にいるのであまりエルファリアの人となりを知ることは出来ませんでしたが、学院に入学した当時はガキ大将のようでウィルを引きずり回していたという様子を知れ、今の怠惰の権化と言われる姿とはまた違っていたんだなと意外でした。

 「発掘機関ウォツチヤー 」エヴァンの策略によりエルファリアを学院に呼ぶためだけに一緒に学院に推薦されたウィル。エルファリアが隠していた真の力が白日の下にさらされ彼女の意志とは無関係に塔へ連れて行かれることとなる顛末が語られますが、マンガ版ではエルフィがつれていかれたときになにもできなかったというウィルのセリフにしか出てこないので(7巻25話)、あらためてこのセリフにも感じる気持ちがありました。

 エルフィを連れ去られた直後に雷公の杖トルゼウス・ファツジ ゼオと印象深い邂逅を果たしていますが、マンガ版では初対面の扱いになっているのはゼオは自身で三秒で忘れると言っているのでその通りなんだろうなと思いましたし、ウィルの方は記憶障害で忘れるんだろうなと、他の場面でもマンガ版との整合性も加味しつつ楽しめました。

 特に気になったのはライバルのシオンで、マンガ版の第一話でウィルに助けられてから意識しだしたのかと思っていたら、入学当初からいざこざがあり、さらにはワークナーから記憶障害があると打ち明けられていたというのを知り複雑ないきさつがあったんだなとますますシオンが好きになりました。2巻8話の「僕を見ろよ!!」はもう告白じゃないかと思いましたがとっくに『恋』してたわけなんですね。今とは全然違うコレットを当時から想っていたのもポイント高いです。

 エドワルドもウィルが無能者だと知れ渡り疎外された時に庇うような態度を見せたというのも意外でした。教師としては優秀だけど自分の傷である至高の五杖マギア・ヴェンデ をあきらめないウィルに態度を豹変させたといういきさつを知り納得。シオンもエドワルドもウィルの戦士としての力は知らずにいて、マンガ版で初めてその力を目の当たりにしてのあの態度というのも納得です。

 ワークナーが恐れていたエドワルドの強硬手段というのが第二話のあの展開なのでしょう。

 『天上の侵略者』からエルフィを守るため戦ったウィル。魔剣を発現させる中で『天上の侵略者』について知識を持っているような感じだったのも気になります。

 まだ「器」として完成していないウィルは力を使う度に記憶を失うという代償を払っていますが、五年後の戦いでは成長を遂げそういったことが起こっていないのも過去との違いを感じました。

 まだコレットと親しくなるきっかけとなった事件やロスティとの出会いなど語られていないエピソードがあるので続きが出て欲しいです。