物語の始まりはスズキという得体の知れない人物の謎に惹き込まれました。
卑屈で自虐的でヘラヘラして警察の追求をのらりくらりと躱 す姿にこいつは一体なんなんだと、相手をする警察と同じように捉えどころがなく困惑しました。
爆弾の予告を霊感と言ってみたり、等々力や清宮の過去を知っているようなそぶりから本当にオカルトな展開もあるんじゃないかと真剣に疑いましたし、清宮の高い知能を持っているというプロファイリングや予想する人物像も本当なのか、本当は等々力の言うようにただの無邪気なヤツなんじゃないのか、いや、変わり種の愉快犯という清宮の予想を超えた真の怪物なんじゃないかと、その正体をいろいろ予想してとても楽しかったです。
調書を担当していた伊勢にスズキが接近するシーンは、こいつが自分を利用しようとしているなら逆に利用仕返してやるという伊勢の思考がフラグ過ぎると思っていたらまんまと利用されてやっぱりかー! となりました。
密室の取調室から始まった物語も交番勤務の倖田や矢吹、不祥事を起こした長谷部など徐々に登場人物が増えていき警察小説としての面白さも出てきて中盤もグイグイ読み進められました。
終盤は様々な情報がつながりスズキと長谷部の繋がりが明らかになり、この爆弾事件のおおまかな全体像も見えてくるのが面白かったです。
清宮に代わり良識を持たないと嘯く類家がスズキと対峙し交わす会話には時々ドキッとする言葉もあり面白かったです。
爆弾が爆発してそれで誰かが傷付いても別にいいじゃないかとか、職務を遂行する倖田達に非協力的な態度の市民にその人達を守るためでもあるのにとか、清宮にスズキが突き付けた命の選別とか、正義が揺るぐ場面が印象に残りました。
序盤からヤサが割れれば事件が進展すると言われていたように、辰馬のシェアハウスが見つかり事件が彼等によって計画されていたことが明らかになったときは驚きましたが、まだそこでは全貌は見えてこず、スズキが計画を乗っ取り自分の計画ということにしようとしていたという真相には、そこまでの類家とスズキのやり取りや捜査で明らかになった事実を考えるとなるほどと腑に落ちました。
東京都心の駅が続けざまに爆破されていくという展開はまるで映画のようで、この密室を舞台にした物語とはあまりにもかけ離れた出来事に、この物語世界の中での現実感がなかったです。
プロローグから市井の視点として登場していたゆかりが爆発に巻き込まれ盾となった老人にスマホを向けるシーンはドキッとしたけど、命を助ける行動で良かったです。
続編もすでに発売されており、再びスズキも登場しているとのことで今度はどんな口八丁を見せているのか楽しみです。