都市伝説系YouTuberの三島響一は渋谷周辺で起こっている行方不明事件に興味を持ち、アシスタントの藤崎鼓と共に調査を開始する。芸術家・ポポリレこと祁答院 流歌も加わり調査をするなか、自身も異世界に迷い込むという体験をする響一。黒いスーツの怪しい男達もまた異世界について調べていることを知り、危険を感じながら謎に迫っていく三人が辿り着いた渋谷の真実とは……。
実際に都市伝説系YouTuberとして活躍されているミルクティー飲みたいさんの初小説ということで気になっていた一冊。
まず読み始めて思ったのはその情景描写の素晴らしさ。正直YouTuberさんということでそこまで期待していなかったのですが、その文学的表現にあっという間に惹き込まれました。本当に申し訳ない。
美しいけど堅すぎることもなく、かといって軽すぎることもない、作中の冬の東京の乾いた空気感みたいなものをとてもリアルに感じられました。もうこれだけでとても好みな作品だと確信しました。
調査が進むうちに行方不明事件の現場が神社であるというのが明らかになっていきますが、神社という"和"のスポットが鍵になっているのもまた良かったですし、実在するスポットが登場するのが東京は知らないのですがワクワクしました。
主人公の響一は普通の青年ですがたまにスピリチュアルな思考をすることがあり読み手としては何か能力的なものを持っているのか? という謎があり、流歌も芸術家と言うことで独特の感性やコネを持っていたりします。
鼓はそんな二人と比べ一般人を自認していますが、調査であまり役立てていないと感じていた時に格闘家の金田と出会います。
試合で勝てない金田は次の試合での引退を決めていた時に異世界に迷い込み、そこで出会った不動明王からそのままでいいのかと喝を入れられたことで最後の試合への闘志を再び燃やしていました。
そんな金田の姿に自分にも自分にしか出来ない闘い方があると鼓が奮起するシーンがグッときました。
話が進んで終盤、黒スーツの男達に襲われた鼓と響一を助けるため金田が駆け付けたシーンは紡いだ絆が起こしたことだなとウルッと来ました。
カシワギの暴力の前にやられたように見えた金田が実は作戦でチャンスを狙っていたというのも熱かったです。
さて物語も終盤。左手に感じる残りページも少なくなってきたけどいったいどんな結末が待っているんだろうと思っていたらその数十ページで真相が怒濤のように語られていきます。
古来から龍脈や神社を使い渋谷に結界を張り守ってきた集団『葵桜 』。
その頂点に立つのが“渋谷の王”こと『渋谷金王 丸』。
今代の金王丸が亡くなったことで継承者争いが起こり、その綻びから行方不明者は過去の時代へとタイムスリップしていたことが明かされます。
さらに葵桜には三つの派閥があり、新しい金王丸を擁立しようとしている派閥は渋谷という特別な地を裏で外国勢力に売り渡そうと画策していることも明らかに。
響一はその企みを阻止するべく新たな金王丸を選ぶ儀式に潜入するがそこで待っていたのは……。
儀式でタイムスリップした先は第二次世界大戦後の渋谷。
葵桜のメンバーであったバイト先の店長・河崎の祖父に出会った響一が導かれるまま向かった先には金王丸の器としてタイムスリップさせられた流歌の姿が。そして金王丸がその姿を現す……。
というところで本編は終了しエピローグへ。事件は終息し普段の生活に戻った響一達の様子が描かれ物語は幕を閉じます。
なぜあの場に流歌が居たのか、果たして今代の金王丸になったのは流歌なのか響一なのか、もしかしたら流歌と響一が出会ったのも流歌を金王丸にしようとした派閥が全て仕組んでいたことだったのか、考察の余地が大いに残るラストもさすが都市伝説系YouTuberさんという感じで面白かったです。