【感想】夏を待つぼくらと、宇宙飛行士の白骨死体

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 新刊案内でこのタイトルを見た時の第一印象は「一昨年同じ小学館ライトノベル大賞を受賞したサマータイム・アイスバーグみたいな青春SFなのかな。宇宙飛行士で死体ときたら『星を継ぐもの』をオマージュしてそう」でした。

 「星を継ぐもの」はずばりそのものが存在する世界観で、主人公・理久の親友・宗太が愛読しておりシチュエーションにちなんで“チャーリー”と名付けることに。

 新型感染症による行動制限も行われた後の2023年を舞台にしていて、宗太の「奪われた青春を取り戻す!」という言葉が今の時代に響きそうだなと思いました。

 中学生の時に出会い行動を共にしていた仲良し四人組。ある事件をきっかけに互いの距離が出来、一人は別の高校に進学することですっかり疎遠になっていた彼等がチャーリーの発見をきっかけにその謎を追いかける姿にとても青春を感じました。

 まず始まりが夜の学校の屋上という場所、そこから自転車で田畑の間を走り木造の旧校舎に向かうというのがすごくノスタルジーを感じました。

 一番印象に残っているのは謎を追う四人が静岡に向かった際に訪れた夏祭りでの一場面。紗季の「お祭りは繋がっている」という言葉から始まるシーンで、お祭りの人混みのどこかに過去の自分や未来の自分がいるような気がするという感覚に、確かにお祭りの提灯の灯りはそんな時間を超えた感覚をもたらしてくれる気がするなぁととても懐かしい気分になりました。

 チャーリーの持っていた80年代の日付で書かれた手帳、そこに挟まっていたこの世界がまるで映画マトリックスのように仮想現実であるかのように示唆しさ された暗号。章の間に挟まれる黒地の幕間は不気味な雰囲気をかも し出し、静岡で出会った加藤氏はシュタゲで言うところのラウンダーみたいな存在で謎に迫る理久達に接触してきたのでは……とSF的な展開を信じて疑っていなかったのですが、その加藤氏のもたらした情報から物語は意外な方向に向かっていきます。キーワードはずばり、SFを現実に引きずり降ろす。

 旧校舎で撮影された「カリンの空似」という映画でW主演を務めた接知彩花。キーパーソンの登場でさらに予想外の方向に進む物語に終盤は驚きっぱなしでした。

 「サマータイム・アイスバーグみたいな青春SFなのかな」という第一印象ははずれましたが、実に夏と青春を感じる物語で面白かったです。見返すとサイトや広告のプロモーションにSFという文字が入っていないのがまんまとやられたって感じです。

 「星を継ぐもの」のように明確にオマージュされたのかは分かりませんが、紗季の姉・千穂が命を落とした原因が隕石というのは泡坂妻夫先生の「乱れからくり」を思い浮かべました。

 奇しくも「星を継ぐもの」は昨年創元SF文庫から、「乱れからくり」は今作とほぼ同時に創元推理文庫からそれぞれ新装版が出ているのが運命を感じます。

 “勝手な想像”、ですけどね。

【感想】少女星間漂流記 2

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 リドリーとワタリの宇宙旅行第二弾。東崎先生は前作のカバーそでで百合っぽくなったとおっしゃってましたが、今回完全に百合確定なエピソードもいくつか。

 やはりタイトルにもあるように二人が旅する舞台が「星」というのが幅広いエピソードを生んでいて、次はどんな話だろうととても楽しめました。基本的には二人が訪れるのは地球型の星で星人も人型が多いですが、中には人とはかけ離れた姿の星人だったり、その星独自の法則に支配されていたりと地球あるいは地球に準じた舞台設定では描けない物語があるのが面白いです。

 「明の星」「星の星」と短めのお話でテンポ良く楽しんだあと「子の星」で生理的にムリ、となり、「獣の星」で少し癒やされる読み始めの構成が上手いなと思いました。

 「湯の星」は二人に最大の危機が迫りながらものほほーんとした雰囲気が面白かったです。リドリーの機転でピンチを脱したのも面白かったですし、岸辺露伴の名前が出て来たのも面白かったです。

 「待の星」は死期(?)を待つメイドアンドロイドの最後の時間に切ない気持ちになりました。

 「無の星」に存在していた女性は果たして「果て」を見てしまったリドリーの姿だったのか。余韻の残る話で面白かったです。

 「壊の星」では二人の過去が少し明らかになったのも良かったですし、幼い日の記憶を思い出し最後にアリスと遊ぶリドリーの姿に切なくなりました。

 「書の星」では前巻でも登場した本の精霊が再登場したのが意外でした。リドリーの言う性格の悪い人間が書く小説の方が面白いという話や創作観は東崎先生の持論なのか気になりました。

【感想】宇宙のあいさつ

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 毎年夏の恒例、今年も新潮文庫のプレミアムカバーで購入。

 星先生のショートショートといえばまるで最近書かれたような、あるいは将来書かれるような、時代性を感じさせない雰囲気が特徴ですが、今作は初期の短編集だからなのかどことなく昭和のかお りを感じさせる空気を感じました。

 毎回文明の終わりを描く作品が入っているイメージですが、今回も「初雪」がそれでした。ボッコちゃん収録の「冬の蝶」が文明を雪が覆っていくのに対し、こちらは雪が解けることでその下から無残な文明の跡が出てくるという意外な結末が別の見方から文明の最期を描いていると感じました。

 星先生といえば宇宙を描いたSF的な話と近未来を感じさせる寓話的な話のイメージが強いですが、今作はホラー的な話がいくつか収録されていたのがこういうお話も書かれるんだと意外に感じました。

 毎夜リンゴをかじる夢を見る男「リンゴ」、テレビ出演を夢見る女「窓」、壁から生えてきた腕「泉」、強盗の前に現れた相棒「ひとりじめ」、崖の上に立つ女「夜の流れ」。

 どのお話もちょっとゾクッとする結末が面白かったです。

 星先生は父の死により事業を継ぐこととなり辛酸をなめたことが人間不信と虚無の思想に繋がったという解説にはなるほどと思いました。

【感想】私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い! 25

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 引き続き文化祭編。

 もこっちの映画の上映も終わり次は智貴主演の演劇が開始。ハプニングでキスしてしまった智貴と紗弥加を巡って智貴を好きな女子達がバチバチに。

 もこっちのキモさで意気投合するきーちゃんと絵文字のくだりと、十五年後の妄想が面白かったです。

【感想】小説 機動戦士ガンダムSEED FREEDOM 下

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 劇場版小説完結編。

 ファウンデーションの陰謀により窮地に追い込まれたキラ達。さらわれたラクスを救出するべく力を欲する彼等の前に示されたのはかつての愛機ストライクフリーダムの勇姿だった!

 どん底に落とされた状況からの大逆転。超王道の展開で敵味方総力決戦のラストバトルが超熱かったです!

 デスティニープランを止めた責任を一人で背負い自分が自分がになっていたキラ。自分の言い訳ばかりでラクスの気持ちを考えていないというアスランの言葉とこぶし にぶん殴られ目が覚める場面は年相応の少年のようでした。

 やはり小説になることで戦況の把握がしやすく、一度目のレクイエム発射のあとミレニアムが宇宙そら を目指し発進する場面や、待ち受けていたファウンデーション艦隊をすり抜けて旗艦を目指していたこと、ミレニアムを守っていたシン達はミレニアムを通してしまったことで反転してミレニアム後方から追ってきたブラックナイトスコードと戦っていたことが理解出来て良かったです。

 キラに認められようと頑張っていたシンの活躍も目覚ましかったです。デスティニーがもはや旧式の機体というのは驚きですが、シンのために設計された機体ということでジャスティス以上の動きをするのが凄かったですし、名シーン「分身はァッ! こうやるんだッ!」も熱かったです。ステラの登場も驚きましたが彼女本人というわけではなく、シンの心に残った闇の具現化の表現なのかなと思いました。しかし失った人達の愛がシンを護っているという一文に彼女のなんらかの思念もまたシンの中に息づいているのかなと思いました。

 幼帝アウラが事故で若返りの薬を被ってしまい若返った本人だというのも知れて良かったです。

 自由を奪うデスティニープラン。カズイの能力のないもののことは考慮されるのだろうかという不安と、デスティニープランにおいては国民は一人の人間ではなく全体を維持する生きた部品でしかないという言葉にあらためてゾッとしました。

 英雄としての役目を務めようとしていたラクスですが、それすらも無自覚に望まれる姿を演じていたわけで本当のラクスではない。本当の彼女はささやかな幸せだけを望む普通の少女なんだというのが私も理解出来ていなかったなと思いました。

 お互いの愛を確かめ合ったキラとラクスですが、表向きは戦闘中行方不明MIA という扱いでコズミック・イラの表舞台からは姿を消すようです。DESTINYの物語でも隠遁生活をおくっていた二人ですが世界は彼等を静かに暮らさせてくれるのか。

 続編が熱望されますがその場合どんな物語が描かれるのか楽しみです。

【感想】少女星間漂流記

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 「キノの旅」に代表される電撃文庫のロードムービー的連作短編に新たな作品が加わった。

 社交的で頭脳労働担当のリドリーと、人見知りで戦闘担当のワタリが、人の住めなくなった地球から人類が新天地を求め宇宙船で飛び出す時代に安住の星を求めて旅をする物語。

 寓話的なお話が多くドキッとさせられる内容もあり、またリドリーとワタリのお互いを大切にする愛情もいいバディだなと思いました。

 危険な状況に陥ってもなんとかしてしまうリドリーの科学力とワタリの戦闘力は痛快でもありました。

 「悪の星」は不死身の悪魔に不満を暴力的にぶつけ続けてきた人々が、悪魔が消えたところでその暴力をお互いにぶつけだし自滅していくという皮肉の効いたお話で、悪魔というモチーフがショートショートの神様星新一先生がよく使われていた印象があるのでいっそう寓話的に感じました。

 続く「環の星」は6ページという超短編でありながらフフッとなるオチが効いていて、果たして彼等はそういう風に進化したのか、それとも以前にもリドリーのような、しかし倫理観のない科学者が訪れていたのか、想像の余地が残るのが楽しかったです。

 最後の「夏の星」ではワタリの前に現れた故郷の人々の意外な真実が明らかになりましたが、最後にワタリが心に浮かべたように、人生という旅が終わればここに戻って来られるのだから今は少しだけの別れだというのが切なくも暖かかったです。

【感想】誰が勇者を殺したか

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 魔王を倒した勇者がその帰りに待ち伏せていた魔人に奇襲を受け殺された。しかし世間では仲間割れや謀殺の噂が囁かれ、真実を知るため勇者の仲間達にインタビューするという形式で進むストーリー。インタビュー後に取材を受けた人物と勇者の視点それぞれからあらためてそのエピソードが語られ真実が浮き彫りになって行くのが面白かったです。

 熱血で高潔で熱い親友キャラのレオン。腹黒ドS聖女のマリア。偏屈で取っ付きにくそうだけど実は情に熱くキーパーソンのソロン。剣も魔法も才能を持たないがひたむきな努力と不思議な魅力で仲間達を惹き付けていくアレス。登場するキャラクター達がみな魅力的でした。

 実はアレスと思われていた人物は彼の従弟のザックで、アレス本人は出身の村から王都に向かう途中で魔人に襲われ死亡していたという真実には驚きました。

 アレスが学院でなぜあれほどひたむきに勇者を目指していたのか、真実を知るとその胸の内が分かったような気がして切なかったです。

 さらに、勇者を導く予言者と言われる存在が巫女の血筋である王妃で、死に戻りを繰り返し魔王を倒す存在を探していたという展開は予想外でまたまた驚きました。

 王妃もまた孤独の中で戦っていて、アレクシアにそんな苦悩を知らずに済んでねた ましいと告げる場面は悲しかったですが、後日談ではザックの取りなしで再びアレクシアと和解出来ているようで良かったです。

 ぶっきらぼうだけど友達思いのソロンが、後日談でお菓子作りを修行中の菓子店の娘に「失敗を恐れず挑戦しろ。俺が買ってやる」と告げるラストが格好良かったです。恋の魔法をかけるとはニクいねぇ。

 悲劇も起こりますが、全体的に暖かで柔らかい、優しい物語だと感じました。