【感想】これが魔法使いの切り札 1.黎明の剣士

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 羊太郎先生がおくる新たな王道学園ファンタジー開幕!

 幼い頃から傭兵団の一員として戦いの中に身を置いていた少年リクス。争いと無縁の生活を夢見て魔法学園に入学するもそこで魔法が使えないことが発覚する。しかし人間離れした身体能力と戦闘スキルでハンデをものともせず学園生活を無双していく。

 平和に楽しく暮らして孫達に囲まれてベッドの上で死ぬという夢に向かって真っ直ぐに突き進むリクス。戦いに明け暮れて育ったせいで周りと常識が若干ズレているところが面白いです。

 ヒロイン・シノはリクスと同じく特待生として学園に入学しますがやはり彼女もスフィアが開けないという問題を抱えていました。

 しかし彼女の場合は心の問題で厭世的な気持ちがスフィアを開かないようにしており、再三リクスに助けられるうちに生きようとする気持ちが芽生え魔法に目覚めます。

 シノが人生を憂いていたのは彼女が二千年前世界を恐怖に陥れた《宵闇の魔王》と呼ばれる魔術師の生まれ変わりで、今世ではその非道を悔い生きる意味を見失っていたからというのはいきなりラスボス級の設定が明かされて驚きました。

 ロクアカ一巻ではグレンによる詠唱の講義が印象的でしたが、今作でも魔法の設定は凝っていて、スフィアという己の周りにその中では万能になれる領域を展開するという設定が面白かったですし、魂を精神体と霊体に分け自我と魂の本質を別に捉えているところが面白かったです。

 シノは魔王の転生であることは明らかになりましたが、リクスは魔王を倒した《黎明の剣士》の生まれ変わりとはされておらず、リクスの出自と合わせてこの辺りも今後気になる点です。

【感想】ソードアート・オンライン オルタナティブ ミステリ・ラビリンス 迷宮館の殺人

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 SAO本編にも圏内事件というミステリエピソードはありましたが、スピンオフでがっつり本格ミステリをやるという挑戦的な作品。

 SAOの設定が上手く活かされていてクローズドサークルでの連続殺人と事件としての面白さもあって面白かったです。

 主人公の元に謎の手記があり、過去のSAO内で起こったらしき事件を現在ALOにいる主人公達が推理していくという物語構造もありクラシカルでありながら意外な展開もあり驚きました。

 解決編で探偵役のスピカが言うようにヒントはあらゆるところにあり、ミステリ部分も茅場のヒントは全て示してあとはプレイヤーの知恵に任せるを地で行く難易度でした。

 メディキュボイドが語られるのがヒントと思い、生き残ったイアソンがメディキュボイドで見ているVRという多重構造を予想しましたが惜しかったです。

 迷宮館の見取り図が何かに似ているというスピカの言葉に色々考えましたがまさか「アンティキティラの機械」とは思い付きませんでした。言われてみれば見えなくもないですが円堂のいうように存在すら知らなかった人も多そう。

 「迷路館の殺人」や「そして誰もいなくなった」など有名ミステリのタイトルが出てくるのも面白かったです。オビの知念実希人先生の言葉や作品内でも言われているように「そして誰もいなくなった」のオマージュであり、手記が重要なアイテムであるところや犯人のトリックにその雰囲気を感じました。

【感想】宇宙戦争

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 言わずと知れた古典SFの大名作。東京創元社70周年のアニバーサリーカバーで出ていたので購入。

 タコのような火星人がやって来て侵略し、このまま人類が終わるかと思ったら未知のウィルスにより火星人が全滅し助かるという、今ではひと昔前の定番エンドの元となった作品くらいの知識しか持ってなかったので楽しめました。

 火星人が触手で立ってるイラストをイメージしますが原作では重力によりノタノタ這いずるだけというのが意外でしたし、それを補うためにパワードスーツを作り出し巨大ロボットのように侵略を行うというのがこれも意外で驚きました。熱線も光線銃のイメージだったので箱形というのも意外。

 作品が発表されたのが1800年代の終わり。今とはまるで様相の違う世界の様子も楽しめました。

 当然まだインターネットなどない時代。最初のUFOが落ちてきて群衆が見物に集まりますが、今ならみんなスマホを持っていて写真や動画をネットに上げているだろうなと感じました。

 ラジオが生まれるのが1900年になってから、テレビは1900年代半ばと情報の伝達スピードが違います。ライト兄弟が飛行機を飛ばすのが約五年後、人類の反撃は大砲で戦闘機など望むべくもない時代でした。

 UFOと聞いて思い浮かぶアダムスキー型が登場するのが1950年代。今では宇宙人と聞いて思い浮かぶリトルグレイがスピルバーグにより「未知との遭遇」に登場したのが1977年と宇宙人へのイメージもかなり違っていました。

 ラストは生存は絶望的と思われた妻と再会するというハッピーエンドなのがエンタメとして良かったなと思いました。

【感想】Re:ゼロから始める異世界生活 38

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 第七章から続いたヴォラキア編ついに完結!

 スバル達『ヴォラキア帝国を滅亡から救い隊』の奮戦により帝都ルプガナでの決戦はいよいよ大詰め。

 魔女の大魔法アル・シャリオで落ちてくる星を父を倒し元の青年の姿に戻ったセシルスが一刀のもとに斬り、再び発射された魔晶砲をスバルとベアトリスがアル・シャマクで異空間に封じるもスピンクスの奥の手はまだ続く。

 魔力を込め水晶宮を爆破しようと目論むスピンクスだったが、モグロ・ハガネの本体でもあり核となる魔核を愛竜カリヨンを駆るバルロイが遙か上空へと運ぶ。

 マデリンやミディアム、守りたいものを守って散っていったバルロイの生き様に胸打たれました。

 残った水晶宮本体を魔晶巨兵として立ち上がらせたスピンクスに立ち塞がるのは異空間より舞い戻ったプリシラとヴィンセント、ユーガルド、三振りの『陽剣』。スバルもまたスピカと共にスピンクスの『星食』に挑み、ついに帝国決戦最後の戦いが始まる。

 スバルもまた元の姿に復帰し激しい戦いに終止符が打たれる熱いラストでした。

 エピローグは帝国で関わった人々の元をスバルとプリシラが訪ねて回る様子が語られるのがRPGでクリア後に各地を回るみたいで楽しかったです。

 しかし、残酷な真実と共に光に溶けていくプリシラ。運命を変えようとするスバルを止め、慟哭するアルの告白に妾の勝ちだと傲慢に告げる姿は最後までプリシラらしく高潔でした。

【感想】Re:ゼロから始める異世界生活 短編集 10

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 本編はルグニカを離れてだいぶ経つのでフェルト陣営の話はもはや懐かしい感じで楽しめました。

 ルグニカの一都市フランダースを牛耳る裏社会のお話で、スラム育ちのフェルトには日の当たるお話よりこういう日の当たらない裏のお話がついて回るのも普段のリゼロと雰囲気が違って面白かったです。堂々としてるフェルトと違ってラインハルトが花街とかに動揺してるのも面白かったです。

 本編ではスバルの力で悲劇も回避してしまうけれど、スバルのいない物語だと人の死は変えられないものというのが強く感じました。未来を夢見て辛い環境を生きていたミモザの命が失われたことがとても悲しく、彼女の未来を守ろうとしていたエッゾの無念がにじむたびに涙が出ました。

 悲しい事件でしたが最後にラインハルトが参加できなかったトメト祭りの雪辱を果たして伏線回収したのが面白かったです。

 ルグニカも裏で陰謀めいた動きが進んでいるようで、スバル達が帰還した先にどんな事件が待っているか楽しみです。

 順調に旅を続けるオメガが遭遇した雪のクローズドサークル。こんな状況に会するメンバーなんて誰も事情を抱えているとばかりにそれぞれの目的や思惑が明かされていくのが面白かったです。

 リゼロの短編集ではたびたびこの意外な真相みたいな展開が見られるので、いつか長月先生の書く本格ミステリーも読んでみたいです。

 いくつかある国のなかであまり語られないグステコ聖王国。新たな仲間を加えたオメガ一行のお話で語られていくのか楽しみです。

【感想】Re:ゼロから始める異世界生活 37

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 帝都ルプガナ、帝国の運命を決める五番勝負。

 先鋒、タンザ&エミリアvsヨルナ、ではなくロウアン・セグムント。ヨルナではなく彼女を倒そうと屍人になったロウアンからヨルナを守るという最初からイレギュラーな対戦。ロウアンを圧倒するタンザの強さに驚きました。ヨルナと再会して彼女を守ろうという強い意志が魂婚術を通してタンザをさらに強くしたんだなと、その気持ちに感動しました。

 次鋒、ハリベル&グルービーvsユーガルド・ヴォラキア。ユーガルド自身はなんだか屍人として蘇らされただけでヨルナことアイリスをずっと想っているだけで帝国の危機とは無関係な感じで、蘇らされた被害者みたいなイメージを持ちました。

 荊で他者を縛る呪いも彼自身にかけられた呪いで、そのせいで孤独に生きるしかなく、選帝の儀が終われば生を終わらせようとまで考えていたところに現れたアイリスに生きようと心動かされた物語がもはや過去の話というのも相まって切なかったです。

 中堅、ミディアム&ロズワールvsバルロイ。ミディアムとバルロイの対話の機会を作ると見せかけて、ミディアムがいることでバルロイの全力を出させない嫌らしい戦いをするところがさすがロズワールと思いましたが、スバルが死に戻りでこの組み合わせを選んでいたことを知るとスバルもなかなか、と思いました。もっともこの帝都決戦で一人の犠牲も出さないと決心しているスバルには策の卑怯や潔癖を選んでいる余裕なんてないんだろうと思いますが。

 普段はあまり見られないロズワールの派手な戦闘や利用できるものは全て利用する最後の化かし合いが面白かったです。

 副将、ガーフィール&ハインケルvsマデリン。マデリンの攻撃で死に瀕したガーフィールが走馬灯を見る場面があり、それが劇場で周りの席を今まで出会った人々に囲まれるというのが敵も味方も含めて今のガーフィールを作っているという感じがして良かったです。

 竜人が龍が人の形をした進化した存在として生んだもので、竜人を生んだ龍は龍殻化し意思疎通が困難となるという設定が語られましたが、そうするともしかして神龍ボルカニカも竜人を生んだためあのような状態になったのでは? と思いボルカニカの竜人もいずれ登場するのかもと思いました。

 大将、セシルス&アルvsアラキア。行方が分からなくなっていたと思われていた『石塊』ムスペルをアラキアが喰らっていたというのが驚きました。セシルスが縮んでいた理由が明らかになりましたがそのままチシャに頼まれたから、というのが意外でした。

 最後は代表者戦スバル&アベルvsスピンクス。決死でスピンクスを倒したものの複数のスピンクスに囲まれ絶体絶命もはやここまで、というところでアベルがここまで隠してきた切り札『陽剣』を抜いたのが驚きました。てっきり所有権みたいなものがプリシラにあるものとばかり思っていて、私もチシャの策にまんまとハマりました。

【感想】Re:ゼロから始める異世界生活 36

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 城塞都市に退避したスバル達だったが、チシャが用意した戦いの鍵となる四大精霊の一体『石塊』ムスペルはすでに敵の手に落ち行方が分からなくなっていた。

 さらに屍人の復活はムスペルのマナを利用していることが分かり、屍人を倒し続ければやがてムスペルのマナが尽き、文字通りヴォラキアの大地が崩壊することがヴィンセントから告げられる。

 スバル達は精鋭部隊を編成すると『魔女』スピンクスを討つため再び帝都ルプガナに向かうのだった。

 一方、ルプガナに残ったアルはセシルスと合流。さらにロウアン、ハインケル達とも合流するとやがて来るはずの『英雄』のために帝都突入を阻む敵の排除を目指し動き出す。

 スバルの『死に戻り』に似たアルの権能。領域を展開することで次々とやり直し地点が更新出来ることや使い過ぎると何かしら代償があることが気になりました。

 『星詠み』といえばウビルクで、星から声を聞くというのが今までの認識でしたが、ロウアンやセシルスも『星詠み』で、選ばれればそれまでの人生を曲げられるようなものだというのが少し怖ろしかったです。しかも与えられた天命を果たすと天命の成就のためにねじ曲がっていた価値観が理解出来なくなる、というのも怖ろしいと思いました。

 しかも埒外のセシルスに至っては聞こえてくる星の声を理解しようとせず観客とみなしてそれを無視するということをやっていたと知ってその規格外にまた驚きました。