【感想】奇譚蒐集録 鉄環の娘と来訪神

ネタバレあり

 大学講師とその書生が各地に伝わる奇祭・因習の謎を解く伝奇ミステリー第三弾。

 今回廣章こうしょう 真汐ましお が訪れたのは長野県の諏訪湖。南辺田家の遣いとしてある物品を引き取りに訪れた二人ですが散策の最中ある出来事をきっかけに近くの村で行われる十二年に一度の祭へ招かれることに。

 オトナイサマとしてもて成される二人は祭の祭主である清月きよつき や黒耀、首に鉄輪の嵌まった少女結麻ゆいま と出会い風鎮祭の謎に迫っていきます。

 真汐が村の子供に狼藉を働く黒耀に怒り手を上げる場面が印象深いです。言葉ではなく暴力に訴えてしまったことを謝り痛かったでしょうと黒耀を心配しながらも黒耀の行いを間違っていると誠実に諭す真汐にこれが優しさと厳しさということなんだろうなと感じました。黒耀も元々清月に教えを受け聡い子供。真汐の真摯な言葉に態度をあらためる姿にはその辿ってきた過酷な運命を思うと年相応の子供らしさを感じました。後に元々は横暴な振る舞いなどしていなかった黒耀が伝主により狂わされていったことを知るとこの時の様子こそ本来の黒耀だったんだなと思います。

 そして物語のクライマックス。祭当夜、真汐は村の人々と協力し黒耀のフリをし非道を働くお役を討ち取っていきます。下衆の参位に五味老人がリベンジするところはスカッとしました。古いしきたりに縛られ苦しめられていた人々が立ち上がる姿が熱かったです。

 廣章の伝統は大切にしていかなければいけないものだけれど時代によってその形も変わっていっても良いもの。込められた想いを受け継いでいくことが大切なのであって形にだけこだわるのでは意味がない。人の贄を求める神などもはや化け物だ。変えていこうとするその気持ちが勇気なんだ。という言葉が印象に残りました。

 今度こそ守るという真汐の願いも届かず黒耀の命が失われてしまったのが悲しい。

 結麻の首に嵌まった鉄輪を切ることに逡巡する真汐に“彼”の声が背中を押してくれる場面は涙腺崩壊しました。

 真汐は廣章の仕込み杖を使って戦いますがこの主から杖を託されないと真の力を発揮できない、逆に言えば主の許可を得ることで真の力を解放するというこの主従関係がすごく好きです。バトルもの的に。

 エピローグではここから枝分かれする奇譚とか始まりの物語という文言が出て来てここからシリーズが大きく動くのか気になります。廣章と真汐と結麻を薩摩で待つものが一体何なのか楽しみです。