【感想】境界のメロディ

ネタバレあり

 Kis‐My‐Ft2のメンバーであり大のアニメファンとしても知られる著者の初小説。

 夢半ばにして夭折ようせつ したはずの青年カイがバンドメンバーだった相棒キョウスケの前に幽霊として現れ現世に残してきた「忘れ物」を探すことに。

 回想ではキョウスケが出会ってすぐカイに引っぱられるかたちで路上ライブに立ったエピソードが語られますが、のちに仲間でありライバルとなるサムライアーとカイが張り合いお互いの演奏が終わった後に打ち解け合う姿がすごく青春だなと感じました。

 カイが他界した当日に行うはずだったユイのためだけのライブも成功し、これでカイも消えてしまうのかと思いきや、もうちょっとだけ続くんじゃよとばかりに元気(?)な姿を見せるカイ。どうやらカイの忘れ物はまだあるようで物語は続いていきますが、次第にカイの身に起こっている異変が明らかに。別れの予感は確実に近づいてきます。

 キョウスケとカイのユニット「かにたま」と同時デビューする予定だったサムライアー。

 カイを失ったキョウスケが音楽の道を辞めたため彼等だけデビューしましたが、現在のサムライアーはかにたまのコピーとも言える音楽を演っていたのでした。

 二組が路上ライブに立っていた時に彼等をスカウトしたミントレコードの荒木。彼は売れるために必要な物は最低限の技術と物語そして魅力だと語ります。たしかに未熟なタレントは応援したくなりますし、表舞台に出て来るまでの物語があればさらに応援したくなる気持ちは分かります。これは現役アイドルでもある宮田さんも実際に言われたか感じていることなのかなと思いました。

 自身のやりたいこと、周りに求められること、実際に売れるもの。音楽に限らず小説でもなんでも、創作をなりわいにされている方は直面する理想と現実なんだろうなと思いました。

 タケシ自身はファンのために自分のやりたいものとは違う音楽をやっていた。この誰も悪くない悩みがグッときました。これからのサムライアーがファンも自分たちも楽しめる音楽を創っていけたらいいなと思います。

 オカルト的な言い方をすれば未練を晴らす度に成仏に近づくカイ。親しい人達のことを忘れついには父親であるジンのことも忘れたカイにキョウスケはいよいよ別れの時を覚悟します。

 かつて完成させることが出来なかった曲。別れの曲となるそれを演奏する二人の姿にウルッときました。

 カイの言葉で印象に残ったものがあります。

「生きてるんだからそれでいいだろ! 俺だってデビューしたかったよ! (中略)でも叶わなかったんだよ! お前らはみんな生きてる! 歌も歌えるし、ドラムも叩ける、ベースも弾ける、なんだってできる!」

 生きていればきっとなんだってできる。