【感想】黄土館の殺人

ネタバレあり

 〈館四重奏〉シリーズ第三弾。前回蒼海館に続いてかなりの厚さで三部構成。

 

第一部の感想と考察

 

 プロローグ、飛鳥井と田所君が密室殺人に出くわす場面から遡り第一部スタート。

 葛城が小笠原を糾弾するシーンから始まったので途中まで交換殺人は成立してしまったのか、けい 良い人だったのに悲しいなと思いつつ、なるほど倒叙ものか変わってて面白い趣向だなと楽しんで読みました。小笠原の計画がことごとく失敗するのを見てこれは葛城がしっかり未然に防いでくれてそうだぞと途中からは安心して読んでいました。

 盗聴を逆手に取って逆に罠に嵌めるというのもなるほどと面白かったです。

 館の事件と連動していそうで、もうこんな予想されることは織り込み済みで阿津川先生も書いてるだろうなと思いつつちょっと考察します。

 〈狐〉は蛍で小笠原と会話した後エレベーターで戻ってきた。役者を目指していたとのことで声色を変えるのはお手の物だろう。ドローンの操縦も上手いということで黄土館の霧の中で子供が見たという光や従業員休憩室にあった灰色のケースはドローンか。テーブルの上に置いてあった栓抜きというのは十徳ナイフ?

 子供が割ったロビーの皿を地震で割れたと言ったのもアリバイのため?

 交換殺人はもちろんアリバイ作りのため。自分を殺すように仕向けたのは小笠原が最後にやったように自分が被害者になることで容疑者から外れるため。

 両親が居ないことや多彩なことから蛍が里子に出された小笠原のきょうだいか? さしずめ犯罪の才能が開花した、というところでしょうか。

 どのくらい当たっているか、はたまた全然見当違いか続きが楽しみです。

 前回と打って変わってノリノリで名探偵をやる葛城にすっかり立ち直ったんだなと思っていましたが、最後に虚勢を張っていたことが分かり友と別れ不安や恐怖と戦っていたこの数日は大変だったんだろうなと思いました。

 

第二部の感想と考察

 

 蛍が〈仮面の執事〉という決めつけのもと読み進めて行き、様々な手がかりが伏線が示したものじゃないかとウキウキしながら読んでいましたが、まず塔のトリックで予想が外れていたのに当然ながらびっくり。

 それこそドローン万能!万歳! とばかりに雷蔵の遺体を像に刺したのも塔の窓から消えたのもドローンを使ったのだろうと思っていたのが大間違いでしっかり〈仮面の執事〉は館内に存在していていました。

 しかしまだ犯人はいる模様。そもそも五十嵐に脅迫状を送りつけたのは誰なのか。やはり蛍が怪しい。

 花音の胸に刺さっていたナイフはきっと〈いおり庵〉の十徳ナイフ。クレー射撃もやっていたとのことで黄来を狙撃することも出来るはず。

 エレベーターは壊れていたけれどもう一つ秘密の通路があり出入りしていた。田所の見つけた鍵は三本。金庫とエレベーターそしてもう一つの通路。繋がっている先は崖の上の東屋。葛城が椅子に座った時についたジュースのようなベタつきは花音のロリポップを犯人が踏みつけ靴に付いていたもの。小笠原がトリックを仕掛ける時に金具がグラついていたというのはそれこそ出入り口だから。

 いよいよ真の解決編。再び交わる探偵と助手の物語はどんな結末を迎えるのか楽しみです。

 読んでるうちに紅蓮館も物語の冒頭が重要な手がかりだったことを思い出しました。同時に館もけっこうな仕掛けがあり今回の塔の回転のようなトリックも十分考えられる世界観だったなと。

 

読了後の感想

 

 〈狐〉の正体は当たっていたもののもう一つ隠し通路があったという予想は大外れ。雷蔵殺しと黄来殺しを館の外から行っていたという真相に驚きました。

 花音の死体が偶然によって発見されたとか、犯人の計画以外の偶然の要素が多く関わっていたというのも驚きました。狡猾に見えた〈狐〉が凡才の犯罪者だという葛城の言葉には偶然に翻弄された彼の苛立ちのようなものを感じました。

 分厚さに躊躇しますが読み出せば軽い読み口で読みやすく、最初に立てた予想が当たってるかどうか先が気になってどんどん読み進められました。

 ケレン味のあるトリックやキャラの立った登場人物も良かったです。

 四重奏ということで次が最後なのか、いったいどんな館が葛城達を待っているか楽しみです。